2011年07月20日

突き抜けてしまった「何でもなさ」

「現実とは思えない…」

3月の後半、広島大学と京都大学の合同学術調査団が
福島原発から30キロをまたぐ飯館村の放射線量の測定中に
ふと、漏らした絶句である。

その後、京都大学の原子炉実験所は「とても人が住めるレベルでは
ない」と、国会での報告会で事態を警告している。

調査団が予想も出来ないレベルと
言葉を失う様は、NHK教育「ネットワークで作る放射能汚染地図」
の中に、ひっそり納まっている。

同じNHKのNスペ「シリーズ原発危機 事故は何故深刻化したか」
では、3月12日のベント、格納容器内の蒸気の放出のさいに
東電社員が、「もう、終わりだ」と漏らす姿が、数秒の場面に
刻まれている。


誰も予想しえなかった激震の起こった翌日未明に
たたみ掛けるように発表された福島原発の異常発生報告。
物々しい政府対策本部の会見中にこぼれ出た、
「ベント」と云う聞きなれない文言は、
一般的にはその時、どう捉えられたのだろう…
少なくとも、当事者である東電の中においては
「震撼」の一言に尽きたのである。

今まで、漏れ出ることさえ細心の注意を払ってきたものを、
絶対に外に出てはならない格納容器内の蒸気を、
外界に放出するなど、とんでもない!を、越して
あってはならない現実であり、「終末」の様相なのであった。

驚くべきことが起こっている!
信じられない事態に私たちの世界は放り込まれる!!
これが、当事者、関係機関、専門家の
最初の、率直な心情であったのである。

けれど事態は炉心の冷却水の水位低下と云う非常事態に陥っており
炉心溶融の懸念の方が圧倒的に強く、
圧力を下げるためのベントは不可避と云う情勢に追いやられていた。


何事も無いかのようにベントは実行され、高濃度に汚染された
蒸気が放出される…

境界が崩壊した瞬間である、


人は、もの事を現実化させるにあたり、
空想がまず、動き始める。
空想を検証して具体化してゆくと、ほぼ同時に空想の
外側に「禁忌」が生まれる。

これが、空想を現実の「もの」「こと」とする「イメージ」の境界を
形づくり、その界面がもやもやした暗い想念を離れて
ポトっと現実に、
産み落とされるのである。

「禁忌」は、常に向こう側に退きながら、かつこちら側に
噴出させる揚力を与えている。

超えてはならない境界を、人は作る。
頭に広がったイメージを、次の行動に結びつけるために…。
そして、そのイメージが生命をおびやかす
危険を伴うものであったなら、
なおさら強力な禁忌の退避方向が深まるのであるが。



もともと、原子力とは、人が手なづけ利用するには
あまりに危険であり、畏怖すべきエネルギーなのであった。

けれど、鼻先に火を点けて、平気で煙草を楽しむ
人においては、
他の生き物が、絶対に近寄ろうとしない
「禁忌」でも、その境界のラインを
押し広げてゆくのである。

「禁忌」とは、見えないがゆえに怖ろしいのであり、
現実に現れていないがゆえに、強力な牽制力を持つ。

しかし、漏れ出た放射性物質は、現実と思えないほどの
高濃度であっても、
急性の放射線障害を引き起こすほどの爆発的な急進性を
持ち合わせていなかった、

ひたひたと、まさにひたひたと
身体をむしばむ、私たちの心情のリズムより
かなりゆっくり障害を及ぼすものだったために、
その「何でもなさ」に、
わからないな、これなら何だか感じられないじゃないか、と

見えないものの「禁忌」の現実化に
気が付かないフリが出来たのである、
無頓着を決め込むことが出来たといえる。

「ゆで蛙」、低温でじわじわ茹でられるため
蛙は気が付かないうちに、もがきも慌てもしないでいるうち
やがて茹であがり、死にいたる、と云う
事故直後、少なくない人たちが
日本の状況をたとえた、この象徴的な状態に、

この突き抜けてしまった「何でもなさ」のために

私たちは、退くことも進むことも
適わない、この今の「現実」に追い込まれてしまった、といえる。


よく判らない、目に見えない、毒性がすぐに表れない、
もののため、
多くの人にとっては、現実化して空に舞い、海に浸透し、
作物に降りかかり、食物に侵入しても、
実態が見えないために、

まだ「禁忌」であり続け、同時に「何でもない」ものとしてある。


しかし知識を持ち、アカデミックである人ほど
この「何でもなさ」に
仕方ないじゃないか、と云う諦念と
これくらいなら、方向修正しなくてもよいのじゃないか、
と云う「根拠の無い理由」を
与えているのである…







posted by 身体気法会 at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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